わたしたちの好きなひと
「好きだ」
「…………」
「お人好しで、損ばかりしてるくせに、ちっとも気づかねえで」
「…………」
「なんでも顔に出ちゃうくせに、隠せると思ってるまぬけで」
「…………」
「泣き虫なのに、おれの負け試合には猿みたいな真っ赤な顔で、泣かずにいてくれる」
「きょ…ぅ、た……」
「おまえが好きだよ」
「…………っ…」
 息ができない。
 わたしはきっと、どこかが壊れてしまった。
 だって、そんな……。
 好き…だ?
 好……き、だ?
 ありえない言葉がリフレインする。
 変。
 こんなの、変。

 耳をジンジン痺れさせる恭太の声を何度もリピートしながら、ふわふわする身体で行儀よく正面に向きなおる。
 向かいの席のおばあちゃんの口、ぽっかりあいてる。
 きっとわたしも同じ顔だ。
 (ぁはははは)
 わかるよ、おばあちゃん。
 わたしも同感。
「し…んじら…れ、ない」
 恭太の。
 ばか。

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