わたしたちの好きなひと
 岡本と掛居。
『あんたにだけは! 負けないわ』
『それは楽しみだけど。次の試験は、なんていうばからしい勝負はやめてね』
 二大巨頭の戦闘はそれで終了。

 岡本は耐えてくれた。
 最終日の神戸修学を終えて、帰りの新幹線が東京駅につく直前まで。


 わたしと岡本は……。
『稲垣……。なんにも言わずにこっち向いて。目、つぶりな』
 委員として掃除に立った洗面所で、鏡に岡本が映ったとき。
 わたしは、それですむならって。
 叩かれてもいいって。
 ぎゅっと目をつむって待ったのに。
 わたしを襲ったのは痛みじゃなくて動揺。
 唇に、温かなものがふれた。
 押しつけられた。
『ざまーみろ。これであんたのファーストキスの思い出は台無しよ』

< 174 / 184 >

この作品をシェア

pagetop