わたしたちの好きなひと
「なっさけねぇヒーローもいたもんだ」
ぼそっとつぶやいた恭太の声に、わたしはケースを握る指が震えてしまうのに、掛居は笑っている。
「とにかく悪かったな。恭太には関係ないのに」
「…三部ものがたり、か」
(えっ?)
恭太がまたつぶやいた。
「地図だろ、これ」
突然恭太の長い脚が、ちょうどふたりの間、廊下の真ん中にいたわたしの腕のなかのケースの底を、コツンと蹴った。
「や…やだ、もう。これだからサッカー部は」
わたしったら。
(いやだ…)
怒っているのは…フリだけだ。
「まぁ、おまえらは楽しんでこいよ」
「…………っ」
恭太、だれに話しかけてるの?
わたし……、返事していいの?
ちらっと見た掛居は、黙ってアゴをちょっとつきだした。
わたしたちの関係を知っているのは掛居だけだから、掛居はときどき、こういういじわるをする。
恭太はわたしが掛居にはなんでも話すことを、きっと知らない。
わたしは、自分が恭太にふられたことを、掛居に知られたくない女の子を演じなきゃならない。
深呼吸。
ぼそっとつぶやいた恭太の声に、わたしはケースを握る指が震えてしまうのに、掛居は笑っている。
「とにかく悪かったな。恭太には関係ないのに」
「…三部ものがたり、か」
(えっ?)
恭太がまたつぶやいた。
「地図だろ、これ」
突然恭太の長い脚が、ちょうどふたりの間、廊下の真ん中にいたわたしの腕のなかのケースの底を、コツンと蹴った。
「や…やだ、もう。これだからサッカー部は」
わたしったら。
(いやだ…)
怒っているのは…フリだけだ。
「まぁ、おまえらは楽しんでこいよ」
「…………っ」
恭太、だれに話しかけてるの?
わたし……、返事していいの?
ちらっと見た掛居は、黙ってアゴをちょっとつきだした。
わたしたちの関係を知っているのは掛居だけだから、掛居はときどき、こういういじわるをする。
恭太はわたしが掛居にはなんでも話すことを、きっと知らない。
わたしは、自分が恭太にふられたことを、掛居に知られたくない女の子を演じなきゃならない。
深呼吸。