わたしたちの好きなひと
 だれもが口にできないことを、平然と言ってのける掛居。
「だって、しようがないだろ。団体競技なんだし。……まあ、おまえが目指してるのは、いつだってもっと上なんだから、小さい勝敗になんてこだわるな。卒業したら、どこか外国に武者修行に出るもよし、プロのチームに入るもよし」
 わたしは息もできないのに掛居は笑ってる。
 おまえは勝てないって言いながら笑ってる。
 (す…ごい)

 恭太は中学時代、サッカーで推薦の話だってきていた。
 でも、一般入試で進学校を選んだせいで、チームとしては一度も大舞台に立てないまま、高校サッカーは終わる…かもしれなくて。
 そんなふうに努力に結果がついてこないことを、サッカーはチームスポーツだからあきらめろだなんて。
 恭太が歯を食いしばって認めないことを、笑ってサラッと言っちゃう掛居は強すぎておそろしい。
 おそろしいのに、わたしたちはいつだって掛居に教わるんだ。
 現実ってやつを。
「とにかく。おれは参加しないもんだと思っててくれ。万が一行くときは……、拓弥(たくみ)の決めたコ-スでがまんしてやる。文句は言わねぇよ」
「…やれやれ。じゃ、シューコは?」
「――ぇ?」
 掛居はわたしもいっしょみたいな言いかたをしてるけど。
 わたしたちもう、中学のときとは違うんだよ。
 忘れないで、掛居。
 わたし…まだ立ち直れない。
 まだ、好きだよ。
 知ってるくせに。
「ま、いいか。あとで相談しようぜ。とりあえず恭はおまけだってからさ」
 だめだって、掛居!
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