わたしたちの好きなひと
「しぃー! シューコ、おれだ、おれ! うわっ」
「しーっ」「黙れ稲垣」「うわ恭、無事かっ」
 え。恭太!?
 なに?
 なに、なに?

「いってぇなぁ。かみつくか、ふつう」
 ようやく事態がのみこめたときには、恭太の左の親指は、わたしの超健康な糸切り歯の反撃を受けたあとだった。
 目の前で左手をぶんぶん振っている恭太に一瞬だけ『ごめん』と思ったけど、それどころじゃない。
 なにこれ。
 なにしてるの、あんたたち!
 ようやく暗闇に慣れてきた目が、しゃがんでいる男子を個別認識。
 藤井。中村。安藤。
 そっちの小さいのは…まっちゃん。高梨も!
「シューコ。さすがに早いな」
 このささやき声は――…。
「掛居?」
「しーっっ。早く! こっち来てシューコ」

  「さっすが、稲垣。フォローが早い」
  「おまえ、(こん)の指、食いちぎったんじゃね?」
  「稲垣バーサーカー説」

 ばかもの!
 とりあえず一番近くにあった頭にげんこつパンチ。

  「いってぇ。稲垣がなぐったぁ!」
  「やかましいぞ、安藤!」
  「しぃ一って!」
  「うるせぇ、ばか」

 この声はみんな3班。
 全負いるじゃないよぅ。
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