わたしたちの好きなひと
「しーんじられないっ。も、絶対に見つかるよ、あんなの」
「だからさ、おもしろそうだろ?」
 そんな、掛居……。
「なんで止めないのよ、みんな」

  「だって、なぁ」
  「悔しいじゃん」
  「特等席とりやがってよぉ」

 なんですってぇ?
「あんたた……」
「しーっ」「稲垣っ」「ぅわ、やべ!」
 誰に引っ張られたのやら、思いきりトレーナーのすそをつかまれて。
 わたしが植えこみの影にしゃがんだとき、正面玄関のドアが開いた。
 出てきたのは旅館の半纏(はんてん)を着たおじさん。
「なんだ。ゴジラじゃねぇや」
 わたしのトレーナーを引っ張ったのは恭太らしい。
 わたしを抱えるようにしゃがんだ恭太が、大胆に植えこみから首を出して確認する。
「おい、見ろシューコ。あのおっさん、拡声器持ってるぜ」
 うそ。マジ?
「おまえら! ッガ――。そこをどこだと思ってるんだ! そんなとこで花火をしちゃいかーん! ッピ――っ。やめんか、ばかもん!」
 うわ。
 拡声器がハウリングするほど怒鳴ってるよ。
拓弥(たくみ)。…聞いたか、いまの?」
「ああ。客にむかって…ばかもん…はないよな、あのおやじ」
 ちょっと、恭太! 掛居!
 なに意気投合しちゃってるの?
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