わたしたちの好きなひと
「やだ。ね、高梨、帰ろ? まっちゃんも笑ってないで。ね、藤井も」
 主犯ふたりを止められないなら援軍希望。
 恭太の腕のなかからぬけだして、みんなに訴えるのに。
 そのとき、鼓膜が破裂するような下駄の音が、植えこみの向こうから響いてきた。
 たぶん先生たちが総登場した音だ。
 わたしたちは、だれの合図もないのに、そろって全員まわれ右。
 ちらっと植えこみのすきまから見える正面玄関に、真っ先に飛び出してきたのは遠目にも真っ赤になった茹でゴジラ。
 こうなると、この先がどうなるか知りたくて。
「なんだよ、シューコ。さっさと帰るんだろ?」
 恭太に腕を引っ張られても全力で拒否。
「だまって、恭太」
 恭太は首をすくめて90度横を向くとすぐ、わたしの袖を引っぱった。
「シューコ。あれ、あれ!」
「なによ」
 見ると。
 花火小僧たちが、いまさら大(あわ)て。
 白い煙の中で、何本もの腕がぶんぶん振り回されている。
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