わたしたちの好きなひと
 今さら証拠を隠そうっていうの?
「ばかじゃないの」
「…だよな。あせるくらいなら、最初からやるなっつう話」
 恭太のつぶやきに、まわりのみんながうなづく気配。
「ちょっと! あれ…ちょっと間違ったら、あんたらの姿だって、わかってるよね?」
「なんでよ。おれらはあんなに無様なまねはしねえよ。なぁ拓弥(たくみ)
「…だな」
 なにうなずいちゃってるの、掛居まで。

「きさまらー! 何組だぁ」
 うわ一。
 ゴジラが旅館の下駄を片方飛ばして走っていく。
 植えこみをかきわけてのぞいた玄関の戸口は、先生がたの総見だ。
「ひゃー。来た来た。見なよ稲垣。バーバまでっ」
 わたしを仲間扱いするのはやめなさい、安藤。
 自由行動でデートのお約束はきみじゃないの?
「あなたたちは…どこから出たんです!」
 うっひゃー。
 バーバ先生、お顔が真っ赤。
 もうお孫さんもいるって聞いたけど、血圧とか大丈夫かしら。
「じゃ…おれたちは退散するとすっか」
「えっ?」
 やだ、恭太。
 いま、いいところなのにぃ。
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