わたしたちの好きなひと
 打ち上げ花火より轟音で、お説教をぶちあげているゴジラとバーバを横目に、ますます増えてきたヤジウマに逆行して、わたしたちはエレベーターに乗りこんだ。
 お迎えのみんなが、話を聞こうとぎゅうぎゅう押しよせるので、しまいに定員オーバーのブザーが鳴るしまつ。
 掛居が乗れなかったみんなをまとめて、階段へと歩いていった。
 先に3階に着いたエレベーター組を待っていたのは、担任の森ちゃん。
(こん)くん! 高梨くん! …よかったぁ。キミたちじゃないのねぇ」
「センセー、おれら、そんなに信用ないか?」
 あたりまえでしょ、恭太のやつ。
「あー、これで胸を張ってロビーに降りていけるわぁ」
 そのとき、どやどやと階段をあがってくる掛居たちの足音がして。
 (きゃー)
 掛居のバケツ!
「先生いそがないと。もう下、大さわぎですよ。はいっ、どーぞ、どーぞ」
「あ。ありがと、稲垣さん」
 もう、わたしは必死で、エレベーターの呼び出しボタンを押しまくり。
 乗ってきたみんなを引っ張り出して、代わりに森ちゃんを乗せて。
 閉まるドアに笑顔で礼。
 60度曲がっていた腰をもどしたときに、掛居が階段組のみんなの先頭に立ってフロアに上がってきた。
 ――バケツを振り回しながら。
「ひゃっは――!」

 そのときあがった歓声の意味も知らず。
 その夜。
 罪のない美しい魂で眠ったのは、過度の緊張で疲れきったわたしと、騒ぎも知らず寝こんでいたプーちゃんだけだったって。
 わたしが知ったのは次の朝。
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