わたしたちの好きなひと
「ねえ、岡本はどこか行きたいとこ、あるの?」
「ある…っていえばあるし。ない…っていえばないわ」
 (なんだかなぁ……)
 まぁ、トイレにまでいっしょに行きたいような子じゃないのが、岡本の1番のチャームポイントなんだけど。
 修学旅行の唯一の楽しみって自由行動でしょ。
 そこを、どうしたいのか聞いてあげてるのに。
「自由って、意外とめんどくさいねぇ……」
 わたしは中学の修学旅行が、掛居と恭太のせいで自由行動なしの、本当の意味で修学だけのヒサンな最終日を迎えたいやな記憶があるから。
 せめて今度の修学旅行は楽しいだけの思い出にしたいのよ。
「わたしはだれかの案にのっかろうかな?」
 まわりはみんな、勝手に椅子を動かして、あっちもこっちも小さなグループを作って盛りあがっている。
「ねーねー、秋子たちも交じったら?」
 あ? うん。
「サンキュー」
 よかったぁ。まだ入れてもらえるところがあって。
「ねぇ秋子、この、宿のある箕面(みのお)ってドコ?」
 はい?
 わたしの話、ちゃんと聞いてました?

  大阪ってさぁ、なにが有名?
  知らなーい。大坂城とか通天閣とかぁ?
  うーん。大阪っていえば食いだおれ?
  じゃあ、大阪食いだおれツアーでよくない?

 うーん。
 ひとが説明してるあいだ、ずっとおしゃべりしていたわりに、いまだに内容はスカスカなのね、諸君。
 でも、まぁ…食いだおれツアーなら無難?
「ちょっと、稲垣」
「うわっ」
 いきなり岡本に襟首をつかまれて、のけぞった。
< 39 / 184 >

この作品をシェア

pagetop