わたしたちの好きなひと
「うそぉ。あんた、タカラヅカなんか観るタイプ?」
 岡本が言って。

  そんな地名、地図にあったっけ。どこ?
  なんだ稲垣、宝塚ってベルばらのか?
  ん? 競馬じゃね?
  宝塚って日比谷だぞ、おい。ウケるぅ。

 一気に教室のすみずみまでタカラヅカ。
 まずい。
 わたしだって宝塚の場所は知らないんだよう。
 おとなりのおばさんが新幹線だの飛行機だので行って、おみやげをくださるから、大阪から行けると思ってただけでぇぇぇ。
「タカラヅカねぇ。なるほど。どうりで掛居氏がタイプなわけだ」
 岡本ぉ。
 そうやってひとのことをイタイ子みたいに見るのはやめて。
 だいたいそれ、どういう意味?
 (うわっ)
 まずい。
 掛居が動いた。
 あちこち乱れた椅子の間を、ろこつにいやな顔をして歩いてくる。
 気づいた岡本が一歩うしろに下がって。
 掛居は岡本に軽く頭をさげて、わたしの机の横に立った。
「まじ?」
 うっ…わぁぁぁぁ。

  あれ。おい地図見ろよ。
  宝塚って兵庫県の地名じゃん。
  あら兵庫県? 
  行く先って大阪じゃなくていいの?
  あ、じゃあさ……

 ほかのみんなはちゃんと話にもどってるのに。
 なんで岡本と掛居だけ、いつまでもわたしのことをにらむのよ。
 (あー、もう)
 やけくそ。
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