わたしたちの好きなひと
「まじだよ。悪い?」
 ツンと見上げた掛居は、なにかを考える顔で天井を見ていた。
「宝塚かぁ。いいけど、恭太がジンマシン出しそうだな」
 掛居のとなりで輝いた岡本の目。
「稲垣ってばぁ。そんなシュミがあるなら、なんで早く言ってくれなかったのよぅ」
 ひゃあああ。
 ぶりっ子路線を選択?
 それで掛居が思い通りになると思ったら、大まちがいよ?
「あれ? 岡本くん、きみも宝塚、好きだったの?」
 いやだ。
 掛居のばか。
 お願いだからもう黙って。
 わたしのことは放っておいて。
「うん。好き好き。も、大好きなの」
「ふぅーん。ぼくは別にシューコがいいなら、かまわないけど」
「あら、わたしたちだって掛居くんたちがいっしょでも、かまわないわよねぇ、稲垣」
 かまうわよっ!
 なに言ってるの。
「あれ? なんだよ、掛居。稲垣とデートの相談かぁ?」
 なんですって。
 だれ?
「ひゅーひゅー。新婚さん、いらっしゃーい」
 なんだとぉ?
 ゴガガッと騒々しい音を立てて、椅子から立ち上がりかけたわたしの肩を、押さえるようにのったのは掛居の手。
「シューコ」
 気にするなって?
 いやよ。
 いまのは聞こえたもの。
 わたしたちに向かって、言ったもの。
 正面切ってからかってくるなら、受けて立つわよ。
< 46 / 184 >

この作品をシェア

pagetop