わたしたちの好きなひと
 わたしも掛居も。
 恭太を見つけることにかけてはエキスパートだ。
 わたしたちは中学のころから、こうやってふたりでグラウンドの恭太を見つめてきたから。
「相変わらずよく走るねぇ、あいつは」
 手すりに頬づえをついて、グラウンドの恭太を見おろす掛居。
 その横顔は、わたしが16年間生きてきて知りあった、だれよりもキレイ。
 いつかはハンサムって言われるようになるだろうけど、17歳のいまは、真ん中わけのサラサラの髪も、すべすべのおでこも、茶色い目も、うすい色の唇も……。
 みんな、みんなキレイな、わたしの自慢の親友だ。
 そしてわたしはたぶん、その掛居の一番キレイな顔を知っている。
 ほかのひとには絶対に見せない――横顔を。
「な一に、見てんだ、よ」
 掛居がわたしの視線を感じてか、グラウンドを見おろしたまま笑った。
「美人だなぁと思って、さ」
「ふざけろよ、ばかっ」
 これですむのは、掛居がわたしを友だちだと思ってくれている証拠。
 掛居のことをよく知りもしないだれかに、こんなことを言われて報復しない子じゃないのは、だれよりもわたしが知っている。
 わたしの横にいるキレイな男の子は、おだやかで落ちついた見た目とちがって、頭の良い子特有の、とんでもなく冷酷な一面も持っているから。
 言葉でひとを刺すなんて、なにをどう言えば相手が傷つくか即座に把握する掛居にとっては容易いことだ。
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