わたしたちの好きなひと
 仕方ないので恭太の手からシュワシュワ音を立てて白い煙を出すカップを強奪しようとしたら、わたしまでとばっちり。
「うわっ」
 ドライアイスに煙をださせている要因、カップになみなみと注がれていた水が、わたしのTシャツめがけて飛んできた。
「きょおおおおお、た!」
「いいから、それ持っとけよ。いま、おまえの出してやるから。…って、あれ? やばっ。結び目ほどけねぇ。――拓弥(たくみ)ぃ、なんとかしろぉ」
「……っ…、っ………って」
 掛居の返事はもう言葉になっていなかった。
 なにしろブランコから地面に転げて、腰を振る恭太に笑いこけている。
「おい、拓弥(たくみ)。シューコのアイスが溶けちまうって」
 ほほう。
 心がけだけはりっぱだな。
「シューコ。もうしようがねぇ、おまえ取れよ。袋やぶいちゃっていいから」
「いやよ。あんたのお尻にさわっちゃうじゃん」
「やっぱり。そんなことだと思ったぜ。尻じゃねえ! 腰だろ。ちっとさわったって痴女とか言わねえわ」
「ち……」
 茫然。
 わたしが痴女?
 わたしが?
「――そう。わかったわ」
 さわってやる。
 さわりたおしてやる。
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