わたしたちの好きなひと
 掛居に目で訊ねてみるけど、掛居はうつむいてシャリシャリとレモンシャーベットをスプーンでくずしていた。
「おれ、シャツしぼらないとだから先にもどるわ。食い終わったカップはこのビニール袋に入れろな」
「え?」
 渡された袋を反射的に受け取って、走っていく背中を見送る。
「なにあれ? あからさまに逃げたよね」
 掛居は溶けてしまったシャーベットをジュースのように飲み干した。
 掛居も返事を拒否?
 それはつまり……
「知ってたんだ、掛居」
 わたしの手からビニール袋を取りながら小さくうなずく。
「あれ? でも、じゃあ、他人に知られちゃいけないとかじゃないのよね。それじゃ、なおさらわかんない。なんで恭太ここに来てるの?」
「…………」
 掛居がすっと立ち上がる。
 セミがじーわじーわ鳴いて。
 暑さは耐えがたいのに、なんだか心が冷えていた。
 そのくらい静かにたたずむ掛居の姿が他人のようで。
 はじめて感じた、取り残される…不安。
「ねぇ、掛居……」
「シューコ……」掛居が目もつぶれそうな太陽をまっすぐ見上げる。 
「まだまだおれの勝ちだな」
 ――えっ?
「推薦でスルッと高校生だなんて……。あいつがそんなズルいこと、するわけない」
「あっ…‥」
 思わず立ち上がっていた。
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