わたしたちの好きなひと
 自分のしたこと。
 言ってしまったこと。
 取り返しがつかないことに、いたたまれない気持ちで、じっとなんてしていられない。
「どうしよう……」
 どうしよう、わたし。
「うらやましいなんて…言っちゃって――。怒ったかな」
 ぎゅうぎゅうと手を握ったり開いたり。
 もうどうしていいかわからない。
「シューコ」掛居が振り向く。
「だから、おれの勝ち」
 (ああ…)
 そうだ。
「そうだね……。恭太、そんな子じゃないや」
「――――うん」
 しずかにうなずく掛居がまぶしい。
 身長差でわたしはいつも掛居を見上げているけど。
 いまの掛居は真昼の太陽を背負って、きらきらまぶしくて。
 掛居ってすごい。
 素直にそう思える。
「ねぇ、掛居……」
「おれたちも戻ろうぜ」
 うん。
 軽蔑しないでくれてありがとう。
 ありがとうって言わせてくれないから、届いてるよね。
 わたしの気持ち。
「…………」
「…………」
 並んで歩かせてくれるけど、掛居には勝てない。
 勝てなくてもうれしいのは、わたしが女の子だからなのかな?
 恭太は――。
 恭太はつらいんだろうか。
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