わたしたちの好きなひと
 友だちになるまえは、わたしも何度も泣かされた。
 いつだって掛居のほうが正しいから。
 悔しいけど『わかった』って言うしかなくて。
 自分でも納得したことは素直に従うようになったわたしに、掛居は本当にいじわるってどういうことか見せつけてきた。
 わたしが迷っているときは先回りして、さぁ考えろっていうように時間をくれるようになったんだ。
 逃げ出したいほど苦しいときに、自分で答えを出すのは簡単じゃない。
 正しいことを言われて泣くほうが、ずっと楽だった。
 友だちになった掛居はもう答えをくれない。
 わたしはずっと――考えている。


「シューコ。こんなところでいじましく恭太ファンクラブの会員をしてるくらいなら、あの子たちに交じったら?」
「…………」
 いじわる。
 掛居があごで指すのはグラウンド脇のベンチ。
 帰宅部の女子たちがサッカー部の練習を見ている。
 ときおりキャーッと歓声があがるのが屋上まで聞こえていた。
「友だちじゃないし……」
 だれと?
 そんなこと、わたしは言えないし、掛居も聞かない。
 お互い、わかっているから。
「ふぅーん」
 掛居の鼻にかかった冷たい返事は、それでも少し悲しい。
 (知ってるくせに)
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