わたしたちの好きなひと
 カラカラに干上がって息が止まる。
 ぎゅっと目をつぶっても、モップがくるくる頭のなかを掃除して。
 (あるよ)
 (あるよ!)
 (あるよっ!)
 YESがうずまくのに。
「ない」
 どうしてわたしはウソをつくの?
「そう…。わたしも、ない」
 岡本のばか!
 こんな話、したくない。
「でもなんかね。(こん)くんにはふられそうで、こわいの。(こん)くんには、こんな気持ち…届かないような気がする。彼って、女の子なんて見えてないのよね。女の子が女の子に…見えてない。だれか好きな子がいるのか……。サッカーにしか興味がない…のか――…」
「…………」
 そんなこと!
 岡本の口から聞かなくたって知ってるもん。
「ときどき…踏まれても蹴られてもいい。(こん)くんの視界のなかに入れるならサッカーボールになってもいい! …って」
「…………ばか?」
「はっきり言う…ね」
 言うよ。
 言わせなよ。
 (ばかっ!)
 恭太は、あんたが好きだよ。
 わからない?
 気がつかない?
 だったら教えてあげない。
 教えてなんか、あげないんだからね。
 (わたしの…ばか)
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