わたしたちの好きなひと


 * * *


「なんだこりゃ。阪神競馬場? 宮崎のやつ、なに考えてんだか」
 掛居がてきぱき、集めた素案届をめくって集計を取る。
 とりあえずクラス分をまとめて、これから委員会に出るんだけど。
「独創性のかけらもないな……。また大阪城、通天閣。都合12人か?」
 まだ、わたしの書いた届け出用紙は、でてこない。
「あはは。六甲山ジンギスカンツアー連判状だってさ。6人ね。この店、うちの高校からの予約で貸し切りになったりしてないだろうな」
 だんだんお尻がもぞもぞしてくる。
「あっ…、ちくしょう。3人連名で宝塚! こいつら、ベンチのハエ組だな?」
「そんな言いかたひどいよ、掛居」
 みんな、恭太といっしょに思い出を作りたいだけなのに。
「なんだ? シューコはこいつらの味方か? 3人で出してくるあたり合同ねらい、みえみえじゃん。おれはこういうやつらは大きらいだ。よくがまんしてると思うよ、恭のやつ」
 恭太はサッカー以外のことには無関心だから。
 がまんしてるんじゃなくて、たぶん…相手にしてないだけだ。

 スムーズだった掛居の手の動きが、止まった。
 黙って、向かいに座っているわたしの目を見る。
「稲垣 秋子(しゅうこ)って、ふたりいるのか?」
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