わたしたちの好きなひと
「だれが全然わかってくれないって?」
 うわっ、掛居。
「おう、拓弥(たくみ)。どうだった?」
「別に。特に問題なし。…恭太、次の次だろ? たぶん、おまえのお母さんじゃないかな、泣きそうな顔できょろきょろしてたぞ」
「おう。…ンじゃ待ってろよ、シューコ。たっぷりおごらせてやるからな」
「なによう、おごってくれるのまちがいでしょ、ばか」
 恭太は、ありもしないボールを蹴りながら廊下に出て行く。

「ばーか」
 その背中が見えなくなるまでドア口で見送って。
 振り向くと掛居がわたしの机の上のプリントを見ていた。
「や…だ、掛居」
「なるほど。女子高がいやなら、このセンだよな。で? 公立はどうすんの?」
 とぼとぼ机にたどり着いて。
「まだ、もう少し待ってくださいって、森ちゃんには、お願い…した」
 うつむいて、ぼそぼそ返事。
 上履きのつま先をモジモジしていると、掛居にプリントで頭を叩かれた。
「まーだ、まーだ、つめこめるぞっと」
 言うのは簡単だい。


< 76 / 184 >

この作品をシェア

pagetop