わたしたちの好きなひと
 見上げると掛居もひどく真面目な顔をしていた。
「本当にそれだけ?」
「――――ぇ」
 やだ、どうしたの、掛居まで。
「ふーん」
 掛居がものうげにテーブルの上の(かご)をつかんで、恭太のほうに傾ける。
 打ち合わせたみたいなタイミングで、恭太が丸めた紙ナプキンを籠に放った。
「おれはまた、向かいに座ると、恭太の顔が見えるからかと思ってた」
「へ?」
 思わず向かいに座る恭太の顔を見てしまった。
 (ぇ。ぇええええ)
「ちょっと恭太! あんた、なに本気にしてんのよ」
「えっ! してねえ! …してねえよっ」
 うそっ! 
 そんな…手を振り回して否定したって。
 いま、ひとの顔を、まじっと見たじゃないのよ。
「…ったく掛居も。いきなりばかなこと言わないのっ」
 (なんか……)
 掛居、真面目な顔しすぎ。
 変だよ。
 こんなの、全然いつものいじわるに思えない。
「ばかなことかな。…だって、おれはそうだよ。となりに座るより、向かい側に座るほうが、恭太の顔が見えるし……、楽しいじゃないか」
 それ、フォローになって、なーい。
「――――なんだ、そりゃ」
 それはわたしのセリフだよ、恭太。
 掛居、どうしちゃったの?

 それきり誰もなにも言わず。
 わたしたちは、ただただ、それぞれの注文したハンバーガーを食べた。


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