真似ごとの恋は終わりを告げる
舞踏会の件を知ったアリシアの父であるカルツィ伯爵は、娘を心配して会場に足を運んだ。
ステファンがウルスラのパートナーとしてホールに出て行くのを見送る娘を目の当たりにし、思わず声を掛ける。
「アリシア、大丈夫かい?」
「お父様、私は大丈夫よ。だって物語ではよくあるのよ?」
ヒロインの恋を邪魔する悪役令嬢は、その権力や立場を利用してヒーローと舞踏会でダンスを踊るのだ。
(それに、ウルスラ殿下も本を好きな方だから、私と同じで本の世界を体現してみたいだけなのよ)
その気持ちは良くわかるからと、アリシアは同志が現れたことを単純に喜んでいた。
ダンスホールに進みでた子息令嬢たちが手を取り合うと、曲が始まり一斉に躍りだす。
ホール中央のシャンデリアの光が降り注ぐ特等席では、ステファンとウルスラが軽やかにステップを踏んでいた。
ウルスラのドレスに縫い付けられた装飾が瞬き、見るもの全ての目線が奪われていく。周囲はウルスラとその相手子息の話題で盛り上がっていくのだった。
「今日のウルスラ殿下は、なんだか輝いて見えますわね。お相手は――セフィル伯爵家のステファン様? 確か、ご婚約のお相手はキルヤ公爵家のルーカス様では?」
「ステファン様は例の本のヒーローにそっくりで素敵な方だから、ウルスラ殿下からダンスを申し込まれたのですって」
「まるで本の世界のヒーローとヒロインがそのまま出てきたみたいですわね。とても素敵だわ!」
アリシアと同じように本の世界を堪能したがる令嬢がいることを知り、心が跳ね上がる。
「そういえば、ウルスラ殿下とルーカス様は、実はあまり仲が良くないと噂がありましてよ」
「噂すれば向こうの壁にルーカス様が。これは――もしかしたら、ステファン様とルーカス様でウルスラ殿下を――!」
「ちょっと、恐れ多いことを口にするものではないわよ! でも、もしそうなったら――」
小声ではあったが、その浮ついた声はアリシアの耳にしっかりと届き、気付かないうちに心に影を忍ばせる。
(……ステファンは、私の婚約者なのに。どうしてルーカス様とウルスラ殿下をとりあうの? それではまるで――)
まるで、ウルスラ殿下がヒロインのようではないか。
アリシアは、思わず胸元を両手で押さえた。苦しくて上手く息が吸えない。
「羨ましいわ。お願いしたらステファン様は他の令嬢とも踊ってくれるのかしら?」
「ステファン様の婚約者のご令嬢が、ウルスラ殿下のパートナーを快諾したと聞きましたわ。大丈夫なのではなくて?」
「ダメもとで聞いてみたっていいわよね。だって、今もウルスラ殿下のお相手をしているのだし」
(――息が、苦しい。ステファンは、私の婚約者なのに。他の人のところに、いっちゃうの?)
周囲の言葉で、ステファンが他の令嬢の元へ去っていってしまう情景が目の前に浮かぶ。
(どうして? ダンスのパートナーに貸して欲しいとお願いされて、頷いただけなのに。どうして――)
――いってしまう。ステファンが私を置いていってしまう。お母様みたいに……
ふらふらと体が揺れだした娘に、フランは思わずその体を抱きとめる。
アリシアのハクハクと口を動かし息が出来ない様子を目にして取り乱した。
「アリシア! 落ち着いて」
アリシアの意識は遠のいていき、そのまま気を失ったのだった。
ステファンがウルスラのパートナーとしてホールに出て行くのを見送る娘を目の当たりにし、思わず声を掛ける。
「アリシア、大丈夫かい?」
「お父様、私は大丈夫よ。だって物語ではよくあるのよ?」
ヒロインの恋を邪魔する悪役令嬢は、その権力や立場を利用してヒーローと舞踏会でダンスを踊るのだ。
(それに、ウルスラ殿下も本を好きな方だから、私と同じで本の世界を体現してみたいだけなのよ)
その気持ちは良くわかるからと、アリシアは同志が現れたことを単純に喜んでいた。
ダンスホールに進みでた子息令嬢たちが手を取り合うと、曲が始まり一斉に躍りだす。
ホール中央のシャンデリアの光が降り注ぐ特等席では、ステファンとウルスラが軽やかにステップを踏んでいた。
ウルスラのドレスに縫い付けられた装飾が瞬き、見るもの全ての目線が奪われていく。周囲はウルスラとその相手子息の話題で盛り上がっていくのだった。
「今日のウルスラ殿下は、なんだか輝いて見えますわね。お相手は――セフィル伯爵家のステファン様? 確か、ご婚約のお相手はキルヤ公爵家のルーカス様では?」
「ステファン様は例の本のヒーローにそっくりで素敵な方だから、ウルスラ殿下からダンスを申し込まれたのですって」
「まるで本の世界のヒーローとヒロインがそのまま出てきたみたいですわね。とても素敵だわ!」
アリシアと同じように本の世界を堪能したがる令嬢がいることを知り、心が跳ね上がる。
「そういえば、ウルスラ殿下とルーカス様は、実はあまり仲が良くないと噂がありましてよ」
「噂すれば向こうの壁にルーカス様が。これは――もしかしたら、ステファン様とルーカス様でウルスラ殿下を――!」
「ちょっと、恐れ多いことを口にするものではないわよ! でも、もしそうなったら――」
小声ではあったが、その浮ついた声はアリシアの耳にしっかりと届き、気付かないうちに心に影を忍ばせる。
(……ステファンは、私の婚約者なのに。どうしてルーカス様とウルスラ殿下をとりあうの? それではまるで――)
まるで、ウルスラ殿下がヒロインのようではないか。
アリシアは、思わず胸元を両手で押さえた。苦しくて上手く息が吸えない。
「羨ましいわ。お願いしたらステファン様は他の令嬢とも踊ってくれるのかしら?」
「ステファン様の婚約者のご令嬢が、ウルスラ殿下のパートナーを快諾したと聞きましたわ。大丈夫なのではなくて?」
「ダメもとで聞いてみたっていいわよね。だって、今もウルスラ殿下のお相手をしているのだし」
(――息が、苦しい。ステファンは、私の婚約者なのに。他の人のところに、いっちゃうの?)
周囲の言葉で、ステファンが他の令嬢の元へ去っていってしまう情景が目の前に浮かぶ。
(どうして? ダンスのパートナーに貸して欲しいとお願いされて、頷いただけなのに。どうして――)
――いってしまう。ステファンが私を置いていってしまう。お母様みたいに……
ふらふらと体が揺れだした娘に、フランは思わずその体を抱きとめる。
アリシアのハクハクと口を動かし息が出来ない様子を目にして取り乱した。
「アリシア! 落ち着いて」
アリシアの意識は遠のいていき、そのまま気を失ったのだった。