このせかいに在るがまま
教室を出ていくクラスメイトの背中を見送って、教室から人気がなくなるのを待つ。
数学の課題をやり始めて、数分もすればすぐに教室には静寂が訪れた。たまたま今日が日直だった星原くんは、一言も発さず日誌を書いている。
だれもいなくなったことを確認し、わたしは今朝ぶりに彼に視線を映した。
「……星原くん」
綺麗な横顔に声を落とす。わたしの声に反応した星原くんがゆっくり顔をあげる。目があって、彼は書いていた日誌をぱたりと閉じた。
わたしと星原くん、二人分の呼吸が聴こえる。
二人きりになるといつも少しドキドキしてしまう理由に、わたしはまだたどり着けていない。
「芽吹さん。なんか久々な感じする……、変だけど」
「…うん、そうだね」
ずっと隣の席にいたけれど、日中は一度も話さなかった。
昼休み、星原くんは直ぐに教室から姿を消していたので、きっと今日も図書室で時間を過ごしたのだと思う。わたしもいつも通り、旧校舎の空き教室でひとり パンを頬張った。
見て見ぬふりはしないけれど、深く干渉し合ったりもしない。
わたしと星原くんの関係は、深いようで まだまだ浅いんだなと実感して、少しだけ悲しくなった。