このせかいに在るがまま
「芽吹さん」
その声にハッとする。そうだった、星原くんと話していたんだった。普通を装って「うん?」と返せば、そんなわたしに彼は言った。
「今日、星 見に行こっか」
「え?」
「考えごとも嫌なこともさ、一旦全部忘れよ」
星原くんが笑う。穏やかだけど、どこか切なさを含んだ笑顔だった。
───考えごとも嫌なことも 一旦全部忘れよう
星原くん。本当はわたし、今 何もかも忘れたままどこかに消えちゃいたいって思ってるんだよ。
そう言ったら、きみは止めてくれるのかな。星原くんの嫌なことって、考えたくないことって、わたしと同じなのかな。
もう、何が正しいかも分からない。
わからないから、分からないまま 星にでもなってしまいたい。馬鹿げたことばかり願うわたしを、星原くんはどう思うだろう。
「……うん。星、見に行こう」