このせかいに在るがまま
「さっすが。すぐいうこときけて偉いねトワコちゃん」
わたしの手からノートを奪い取った滝口くんが、もう片方の手でわたしの頭に触れる。ぐしゃぐしゃと髪の毛を崩され、わたしはぎゅっと下唇を噛んで俯いた。
さわらないでと言いたかった。
気安く名前を呼ぶなと突き放したかった。
腐った人間に触られるような、やすい女になったつもりはない。
けれど、ここで拒否をしたら面倒なことになるのも分かっていた。
わたしと滝口くんのやり取りを、山岸さんとその周りのクラスメイトたちはにやにやと楽しそうに見ている。
「滝口、ゴミに素手で触わるとかやばすぎ~」とか、「顔だけよくたってゴミにかわりないんだし見境なく狙うのやめなよぉ」とか。
このクラスで息をするわたしに人権はない。
そして、わたし自身もこんな底辺の人間ばかりが詰め込まれた場所に居場所がほしいとも思っていなかった。
「あ。やべ、予鈴なったわ」
予鈴が鳴った。
「席つけー」という、このクラスのいじめの存在に見て見ぬふりをする、キャリアに捕らわれた担任が入ってくると、わたしからノートを奪った滝口くんは「じゃ。借りるねトワコちゃん」とわざとらしくわたしの名前を呼び、自分の席に戻っていった。