このせかいに在るがまま
「…それ、姉ちゃんにも昔言われたことある」
「そう、なの?」
「うん。小学校の時だったかなぁ…、思い返したらすごい変な話なんだけどさ、」
小さく呟いた星原くんの声。
静かなこの空間では、決して大きくないその声も鮮明にわたしの耳に届く。
表情は見なかった。ただ同じ空気を吸いながら、同じ星を数えながら、星原くんの声に耳を傾ける
「おれの姉ちゃんの名前、ウミホっていうんだ。海を歩くで、海歩」
「…素敵な名前だ」
「うん、でも、姉ちゃんは嫌ってた。『海は人を殺しちゃうけど、空は誰も殺さない。ただそこにあるだけで、 安心感があるから、天晴はいいね』って」
「ね、変な話でしょ」そう言ってハッと息を吐いた星原くんが、ぽつりぽつりと言葉を続ける。
海を歩くお姉さんと、空に広がる星原くん。
どちらも素敵だと、名前を聞いてそう思ったわたしの気持ちは、なんとなく言わない方が良い気がした。
ひろがる星空の下、わたしは 星原くんの昔話を聞いた。