このせかいに在るがまま
時間帯は覚えていないけれど、外はすっかり夜になっていて、昼間でさえあまり人通りの少ない通学路には人の気配が全くなかった。
ばあちゃんが気づいたら心配してしまうだろうと思う反面、こんなに夜に外を出歩くのは初めててワクワクしている自分もいて、おれは少し複雑な気持ちだった。
学校に着き、門を飛び越えて電気の一つもついていない校舎に忍び込む。
まるで肝試しをしている気分だったけれど、おれは小学5年生にしてお化けを怖いとは思っていなかったので、怖い怖いと言いながらおれの手を握りしめる姉ちゃんに呆れていた覚えがある。
姉ちゃんの教室に行くと、探していたハンカチはすぐに見つかった。淡いピンク色のそれは、右下にうさぎのアップリケが施されている。
確か、数年前の姉ちゃんの誕生日に母さんがあげていたやつだったと思う。
姉ちゃんがわざわざ怖いくせに夜の学校に忍び込んでまで取りに来た理由は、嬉しそうにハンカチをにぎりしめる姉ちゃんをみてなんとなく察した。