このせかいに在るがまま
「……なにそれ、どういうこと?」
声色に感情が出てしまった。「なんで怒ってんのー」と呑気に返され、それがまた少し癪に触った。
ヘラヘラ笑っている姉ちゃんのことが時々嫌いになる。
おれが怒ることじゃないのかもしれないけれど、姉ちゃんみたいに笑って物事を許せるような体質ではないから、渇いた笑いを見る度に得体の知れない不安が募るのだ。
「晴れた空に、星原って……すごいじゃん、天晴のための名前だよ。お父さんたち、もしかしてこの星空みたことあるのかな」
「……知らないよ、そんなの。父さんたち、昔話とか全然してくんないし」
両親の昔話は知らない。おれたちにそんな話をする時間があったら残りの仕事をやるような人たちのことなんて、おれだって別に興味はない。
ばあちゃんの昔話の方がよっぽど興味があったし、ばあちゃんはいつも懐かしそうに過去をふりかえってくれていた。
「ね。空っていいよねぇ…。誰も殺さないんだよ、そこにあるだけで安心感がすごいでしょ。落ち込んだ時に空が晴れてるとなんとなく心も軽くなるし、逆に雨が降ってると胸がざわついたりする。空の影響力、半端ないよね。天晴もさ、きっとこれから、そういう風にだれかに影響を与える人になるんだよね。いいね、いいなぁ、天晴は」
天晴はいいなぁ、
この空 天晴みたいだね、
姉ちゃんが言ったその言葉もまた、渇いた笑いと同じくらい嫌いだった。