このせかいに在るがまま
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「だから持ち歩いてるだけ。突然帰る家がなくなってもいいように、一応」
こんな古びた校舎の一角のゴミ箱に捨てられるのはなんとなく少しだけ可哀想だとおもったから。
どうせ捨てるならちゃんと神社に納めようと、それもなんとなく決めていた。
「受験、難関校はあきらめたの?」
「お葬式とかいろいろあったし、勉強する気も起きなかったから。親戚の家から近かった公立だからここにしただけ」
「芽吹さん、いま誰の家でくらしてるの?」
「…親戚のいえ」
両親が死んで、わたしは親戚の家に引き取られた。
母の妹は結婚しているものの、子供はいなかった。望んで作らないのか、恵まれなかったのかは知らない。聞くほど興味もなかった。
もう2年近くその家で暮らしているけれど、わたしはいつまでも敬語が外れないし、ご飯は他人の家の味がする。
はやく一人で暮らしたい。
今の時点で、大学にはいかずに就職をして一人暮らしをしようとひそかに考えている。
両親が残してくれたお金もあるし、使い道がなくたまる一方だったお年玉やお小遣いも高校生にしては結構な額がある。
高校では部活に入っていないので、代わりに給料の高い居酒屋でバイトを始めた。繁華街の方にあるお店なので、おとなの街で浮かないために私服は大人っぽいものを着るようにした。