御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む

Mistake１ 確認してからドアを開けましょう

『断言します。あなた、絶対後悔しますよ！』

　きっぱり言い切って彼の腕を強引に引いた。いつも従順だった私の意外な行動に驚いたのか、目を丸くした彼の表情は、今でもはっきり覚えている。

　夜に溶ける寸前の空を思わせるような灰色がかった瞳は、魅惑的でなにもかも見透かされそうで怖かった。

　そう、ちょうどこんな色――。

「痛っ、いたい！」

　すぐそばで私を捉えるふたつの目はすぐに細められ、逆に私の意識は嫌でも覚醒する。

「いたっ。芽衣(めい)、手を離しなさい」

「んぱ」

　生まれて十ヶ月の娘に通用しないとわかっていても、懇願せざるをえない。

　彼女は私の枕元に座り、天使の笑顔で握りしめている手を振り上げる。それに従い私の髪が強く引かれ、すかさず自分の頭を押さえた。

「やーめーてー」

　苦笑しつつ芽衣の握りこぶしをゆっくりと開かせる。ようやく解放された私は上半身を起こし手櫛で髪を整えながら微笑んだ。

「おはよう、芽衣。でももう少しお母さんを優しく起こしてくれてもいいんじゃない？」

「あぅあ」

　意味をわかっているのかわかっていないのか。機嫌がいいのは確かだ。泣きながら起きられるよりよっぽどいい。

　ひとまず芽衣のオムツを替えて着替えさせるのが先だ。

　川上(かわかみ)早希(さき)、二十七歳。シングルマザーとして十ヶ月になる娘を育てている。

　肩下まで伸ばしていた髪は出産前にばっさり切って、今は肩先で揺れている。