御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
 社長はぎこちなくも芽衣の背中とお尻の下に腕を回して自分の胸元に抱き上げる。

 案の定、芽衣の顔が歪み声を上げて泣き出した。慌てたのは私ですぐさま社長から芽衣を受け取ろうとする。

 しかし社長は動じずに芽衣を抱えたままだ。私の顔を見たからか、抱っこの体勢が安定しているからか芽衣は意外にもすぐに泣きやんだ。

 驚いて目をぱちくりさせる私に対し、芽衣は自分を抱っこしている社長の顔を下から覗き込み、じっと見つめている。ややあって私は信じられない光景を目にした。

 芽衣が機嫌良く社長に笑いかけている。そんな芽衣に社長も向き合っていた。彼が芽衣を見てこんな優しい顔をするとは思いもしなかった。

「……社長は子どもがお好きなんですか?」

「いいや。でも自分の娘は特別だな。可愛いよ」

 可愛いという言葉にドキリとする。再会して彼の意外な一面を見せられてばかりだ。そもそも私は仕事での彼しか知らなかった。

「川上」

 名前を呼ばれ注意を向けると、芽衣がぐずりだし、こちらに身を乗り出そうとしている。

「戻りたがっている」

 すぐさま芽衣を受け取り彼女を抱っこすると、状況に満足したのか芽衣は私にくっつきながら社長の方をうかがう。

「んばっ……きゃぁ!」

 ご機嫌に声をあげて笑顔を振りまく。まるで会いたかったと言っているみたいだ。

「聞きたいことが色々あるんだ。あがってもかまわないか?」

 低い声と鋭い眼差しは有無を言わせない。仕事でいくらでも見てきた迫力ある面持ちに私は腹を括るしかなかった。
< 10 / 147 >

この作品をシェア

pagetop