御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
 食後に少し休憩して帰りの準備をする。チェックアウト後でもホテルの施設内で過ごすことは可能だ。

 ただ、芽衣の疲労具合を考えると長い時間の滞在は得策ではない。この小さい体は大人以上にきっと疲れている。

 案の定、明臣さんの車に乗り込んでしばらくしないうちに芽衣は夢の中へと旅立った。

「明臣さん、色々とありがとうございました」

 お礼を告げ、私と芽衣をアパートに送ってもらう間、最近の彼の仕事のことや芽衣の成長ぶりなど私たちは他愛ない会話を繰り広げた。

 その中で、結婚の話を持ち掛けられると思っていたが、意外にも彼の口からその話題は出ない。そうこうしているうちにアパートが見えてきた。

 眠っている芽衣を抱えようとすると、明臣さんが荷物を運ぶのを買って出てくれたので素直にお願いする。

 器用に片手で鍵を開けて部屋に入り、まずはベビー布団の上に芽衣を寝かせた。置いた瞬間、身動ぎしたが再び規則正し寝息を立てだす。

 そして玄関で待たせている明臣さんの元に駆け寄る。

「すみません、ありがとうございました」

「早希」

 彼から荷物を受け取ると、明臣さんはややためらい気味に口を開いた。

「一緒に暮らさないか?」

 正直、予想していない角度からの提案に私は目を瞬かせる。

「前にも話したが、ここでの暮らしが早希や芽衣にとって心地いいものなのもわかっている。けれど一緒に暮らしてふたりと過ごす時間がもっと欲しいんだ」

 明臣さんの口調は真剣そのもので彼が本心で言っているのが伝わる。私はしばらく沈黙してからのろのろと唇を動かした。
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