御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
 私の顔色を読んだ明臣さんが説明する。

「岡崎から連絡があったんだ。無茶させたうえ顔色がよくなかったって。インターホンを鳴らしたんだが、反応がないのに鍵が開いていたから悪いとおもったが勝手に上がらせてもらった」

 朝、芽衣を送り届けて帰宅した後、鍵をかける余裕までなかったらしい。時計を確認すると正午過ぎで、ひとまずお迎えの時間まではまだ余裕がある。

 そして私は反射的に頭を下げた。

「すみません、ご心配をおかけして……でも、私は大丈夫ですから。眠ったからだいぶ気分もよくなりましたし」

 それは事実だ。明臣さんを前にして動揺はしているものの頭痛は収まり、体調は回復している。やっぱり連日の睡眠不足もあったのかもしれない。

 彼の発言が何度も頭を過ぎり、芽衣が度々起きるのもあってまとまってろくに眠っていなかった。明臣さんはスーツを着ているから、おそらく仕事を抜けてきたのだろう。

 その結論に達すると血の気が引いた。

「仕事に戻ってください。すみません」

 強く訴えかける私に対し、明臣さんはまったく動じない。

「早希が謝る必要はない。仕事のことも心配しなくていい」

「そんなわけにいきません!」

 反射的に声を荒げて言い返す。どちらかといえば明臣さんは私の態度に驚いたらしい。彼の灰色がかった虹彩が揺れ、私は耐えきれずにうつむいた。

「私のせいであなたを(わずら)わせたくないんです。わかってください」
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