御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
 パジャマ姿でほぼノーメイク、髪も格好もなにも取り繕えていない。以前なら気にしなかったのに今はひどく居たたまれなかった。こうして彼の時間を奪っている現状にも。

 明臣さんの役に立つ存在でいないとならないのに。

 明臣さんの隣にいるには、妻を務めるには、今の私はあまりにも釣り合わない。そもそも最初から彼とは……。

「わからない。煩わせるってなんだ?」

 やや怒気の含んだ声に肩が震える。

「早希は、どうして俺との結婚を承諾したんだ?」

 一方で続けられた問いかけは、どこか悲しげな声色だった。私は明臣さんの顔を見られないまま言葉を探す。

「っ、その方が芽衣のためにはいいと思ったんです。明臣さんがこの先も芽衣を娘として真剣に向き合ってくれるつもりだと伝わりましたから」

 彼は父とは違う。自分から結婚を望んで芽衣のそばにいるのを希望している。それに。

「明臣さんの立場を考えたら、ちゃんと結婚して芽衣や私との関係を明白にしておいたほうがなにかといいんじゃないかって」

『愛し合っていない夫婦の元で育つなんてよくありません』

 そうだ。芽衣のためと思って彼を拒んだけれど、あんなのは私のエゴだ。本当は私が嫌だっただけ。

 明臣さんと……愛し合っていない結婚をするのが。

「早希は?」

 明臣さんの声で我に返るが、意味が理解できない。思わず顔を上げると想像以上に彼は私のすぐそばにいた。

「早希の気持ちはどうなんだ?」

 そして、念を押すように尋ねられ正直戸惑う。
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