御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
「私、は」

 私の気持ちはいらない。どうすれば両親共に私のそばにいてくれるのか。どうすればふたりの娘として必要としてもらえるのか。

 そんな考えばかりが先にきて、私の本心はいつも二の次だった。家族みんなで仲良く過ごしたいだけなのに、伝えたら父も母も困った顔をするから。

 今だって……。

「芽衣や俺の事情よりも早希の気持ちが俺には一番大事なんだ」

 予想外の言葉に私は目を見開き、彼をまっすぐに見つめる。

「なん、で?」

 唇が震えて声が擦れた。明臣さんも私から目を逸らさない。

「……後悔しているんだ、ずっと」

 時間も心臓もなにもかもが止まる。耳鳴りがするほどの静けさが押し寄せた後、彼の形のいい唇が動いた。

「早希と向き合わなかったことを」

 そう言うと明臣さんは私の手に自分の手を重ねる。反射的に引きそうになったが、しっかりと掴まれた。

「あの夜、誰が相手でもああなったんじゃない。早希だからなんだ」

 私は唇を噛みしめ小さく首を横に振った。

「嘘、嘘です。明臣さんは、日比野さんと結婚したかったんでしょ? 関係を終わらせたのは日比野さんからだって聞きました。あのとき、もしもそばにいたのが日比野さんだったら……」

 言いながら勝手に涙が溢れそうになる。それ懸命に我慢して私は言葉を止めた。

 明臣さんは自嘲的に小さく息を吐く。

「しょうがない。彼女にはお互いに割り切って結婚するのはかまわないが、他の女性を好きな男とはさすがに結婚できないと言われて、言い返せなかったんだ」

 明臣さんは困惑めいた笑みを浮かべ、空いている方の手で私の頭を撫でた。
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