御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
「早希と向き合えなかった俺を許してほしい。けれどあの夜の出来事や芽衣の存在は関係なく、俺は早希以外と結婚するつもりはないんだ」

 涙の膜が視界を滲ませていく。鼻の奥がつんと痛くて息もうまくできない。明臣さんはさらに私との距離を縮めて、頬を優しく撫でた。

「ひとりで抱え込まずに甘えてくれないか。早希の弱いところも全部受け止める。どんな早希でも愛しているから、なにも心配せずこれからもずっと隣にいてほしい」

 ついに堪えきれなくなった涙が私の目尻から零れ落ちる。明臣さんの指がそっと目元を滑り、涙を拭ってくれた。その仕草にますます涙腺が緩む。

「っ、私……好きになった人と結婚して、もしも子どもが生まれたらその人と子どもをたくさん愛したいって思っていました」

 唐突に私は自分の思いを語りだす。幼い頃から抱えていた夢は、みんなが当たり前のように持っている些細なものだった。

 けれど成長するにつれ簡単に実現できないものなのだと現実を悟っていった。

 誰かを好きになって、ましてやその相手も自分を好きになるなんて、奇跡みたいなものだ。

「愛して、愛されて。お互いに必要としてかけがえのない、そんな家庭に憧れていたんです」

 瞬きを繰り返し、焦点を定めて私は明臣さんをしっかりと見つめる。

「叶えられるのは明臣さんだけなんです。だって私が好きなのは、愛されたいと願うのはあなただけだから」

 いつか温かい家庭を築けたら。その前に好きになった人に愛されたい。必要とされたい。どんな私でもいいんだって。
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