御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
 歯列をなぞられ、口内をくまなく蹂躙されていく。明臣さんとの経験の差は明らかで、そこが少しだけ寂しくて悔しい。

 彼にしがみつく形で密着すると明臣さんも私を強く抱きしめ直した。激しいキスに目眩を起こしそうで呼吸のタイミングも掴めない。

「はっ、ん……ん」

 自然と甘ったるい声が漏れて羞恥心にぎゅっと目を瞑ると、明臣さんは落ち着かせるように私の頭や頬を撫でた。

 強引なのに、いちいち私の様子を確認しながら進める彼の優しさが伝わってきて、また目の奥が熱くなる。

 意図的にか、勢い余ってか。気づけばうしろに押し倒され、おもむろに目を開けると視界に私を見下ろす明臣さんの姿が映る。

 ゆるやかに彼も身を倒し、私たちの距離は縮まった。私は息を押し殺して明臣さん見入る。

 彼の指先が私の頬から顔の輪郭をなぞるようにして滑らされ、ぞくりと肩が震えた。次に明臣さんは私の前髪を掻き上げて額に口づけを落とすと、ふっと微笑む。

「早希は今、本調子じゃないんだからこれくらいにしておかないとな」

 そう言って起き上がろうとする彼のスーツの端をとっさに掴む。

「待って」

 目を丸くする明臣さんに私は続ける。

「嫌です、離れないでください!……そばにいてほしいんです」

 感情的でまるで子どもみたいな言い草。私らしくないと自分でも呆れてしまう。けれど、嘘偽りのない今の私の本音だった。

 せっかく明臣さんが大人の対応を示したのに、どう思われただろう。
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