御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
「あのときと一緒だな」

「え?」

 目をぱちくりとさせる私に明臣さんは穏やかに笑った。

「途中でやめようと思ったのに、そうやって早希が甘えてきて抗えなかった」

「わ、私のせいです?」

 なんの話か理解した私は、動揺で顔が熱くなる。言われてみたらそんな発言をしたような、しなかったような……。

「そうだ。いつだって俺の心を乱すのは早希だけなんだ」

 明臣さんは再び私との距離を縮めると、色気たっぷりに囁いた。そして私の頭を撫でる。

「やっと早希の本音が聞けたな。これからもそうやって甘えてほしい」

 嬉しそうな彼の表情に胸がいっぱいになる。こんな満たされた気持ちは初めてかもしれない。

「明臣さんが好きです。あのときも……あなたが好きで、だからその……」

 我ながら大胆な行動を取ってしまったらしい。恥かしさで言いよどんでいると軽く唇が掠め取られた。

「俺も早希が欲しかったんだ。誰にも渡さない」

 色素の薄い灰色がかった瞳は言い知れぬ色気と情欲を滲ませていて目が離せなくなる。

 ああ、私もこの目に捕まってしまったんだ。

 自分の気持ちを伝えたくて明臣さんの首に腕を回しおもむろに顔を近づける。どちらからともなく口づけを交わすと、それが合図のように感情の赴くままにお互いに求め合っていく。あの夜と同じように。

 いらないと思っていた私の気持ちを彼は大事だとすくい上げてくれる。だから私も、明臣さんの隣にいたいと、やっと素直になれた。
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