御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
 すっかり体調も回復し、夕方になって明臣さんの車で芽衣を保育園に迎えに行くことになる。明臣さんも芽衣の保育園に興味があるらしい。

 有り難い申し出だけれど、彼を連れていくと余計な注目を浴びそうな気がする。でも芽衣は喜ぶかな?

「今度、指輪を見に行こう」

 助手席に乗り込むと、運転席に座る明臣さんが唐突に提案してきた。驚きで彼の顔を思わず二度見する。しかし明臣さんは表情を崩さない。

「改めてプロポーズする」

 真面目な顔をして切り出され、嬉しさよりも先に戸惑いが湧き起こった。

「で、でも明臣さんの気持ちは十分に伝わりましたし、そんなこだわりもないのですが……」

 小声で反論すると明臣さんは私の手を取った。

「いつか芽衣が大きくなって俺たちのことを聞いてきたら、お父さんはお母さんの大好きな花と指輪を用意して結婚を申し込んだんだって伝えよう」

 ぽかんと口を開ける私に明臣さんは眉尻を下げて苦笑する。 

「何度も断れたけれど諦めなかったって」

「何度も断っていませんよ」

 つい口を尖らせて否定したものの心の中は温かい気持ちで満たされて感情が込み上げそうになる。

『お父さんとお母さんはどうして結婚したの?』

 幼い頃に両親に尋ねた思い出。芽衣がもし尋ねてきたら、私は笑顔で答えられるかな。

 明臣さんは私の手を離さない。

「ずっと好きで、やっと振り向いてもらえたんだ。早希と結婚できて芽衣がいて幸せだって」

「……私も伝えたいです」

 明臣さんを好きになって、結ばれて芽衣を授かれた。たくさんの幸せを与えてくれる存在を私も大切にしていきたい。
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