御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
 そのとき俺の膝の上で早希が用意したおやつを食べ終えた芽衣が動きはじめた。

 口を拭いて床に一度下ろすと、再び両手を上げて抱っこをせがむので俺は彼女を抱き上げて膝の上に乗せる。

 芽衣がテーブルの上のカップに手を伸ばそうとするので、少し遠めに置き直した。早希は今、岡崎の妹と買い物に出かけている。

 芽衣は見ているからと言ったのは俺の方で、早希は遠慮しつつ嬉しそうにしていた。そして早希を迎えに来た岡崎の妹の隣にはなぜかこいつがいたのだ。

「ちょっと残念だわ。もう芽衣にとっての父親は、お前以外にありえないなんて」

 父親の座を狙っていたと話す岡崎だが、その本心はどこにあるのか謎だ。たしかに今日、芽衣を抱っこしようとした岡崎は、すぐに泣かれ心なしか寂しそうな顔をしていた。

「にしても千葉が父親をやっているのを見るのはなかなか貴重だな。本当に芽衣はお前によく似ている」

 最初は俺も驚いたが、多くの人間にそう声をかけられるから事実なのだろう。俺としては笑うと早希に似ていると思うのだが。

「岡崎は実際のところ早希のことはどう思っているんだ?」

 気になっていた疑問をぶつける。妹の親友だからといってここまで気にかけて世話を焼くだろうか。

 問いかけに岡崎はなにかを含んだような笑みを浮かべた。

「早希がお前を諦めたら全力で慰めて、芽衣も一緒に俺のものにする気だった」

 さらりと言ってのけ、カップに口をつける岡崎に思わず鋭い視線を送る。ところが、やつはカップを置くと穏やかに微笑んだ。

「でも、そんな未来は来ないと思っていた。早希はずっとお前を想っていたから。千葉だってそうなんだろ?」

「ああ」

 静かに答えて、俺は記憶を辿る。早希に、彼女に惹かれはじめたのはいつだったのか。
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