御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
※ ※ ※

 君島さんの申し出で、もうひとり若い社員に秘書を務めさせるよう言われ、面接の受け答えや就職試験の結果を考慮して早希を秘書に抜擢した。

 そして社長室に現れた早希を改めて見ると拍子抜けするほど“普通”だった。

 よく言われる秘書としての華がある外見でもなければ、社長秘書になった喜びを滲ませるわけでもなく、お世辞にもやる気に満ち溢れているといった感じもしない。

 だが、こちらとしてはそんなものはまったく求めていないので、逆にちょうどよかった。

『……心配しなくても使えないと思ったらすぐに変える』

 先に釘を刺して早希の反応をうかがうと、彼女は怯むどころか瞳に闘志を宿してこちらをじっと捕えていた。

 そして秘書となった早希は、君島さんの元で真面目に粛々と業務をこなしていった。

 元々よく気づいて、頭の回転も速い彼女は仕事を覚えるのも早く、こちらの要望にもきっちりと応える。

 君島さんからの評判も上々で、ひとまず彼女を秘書にして後悔も異動させる気も起らなかった。

 そんな早希と仕事の延長で初めて食事をする機会があった。『仕事中なので』とアルコールは頑なに口にしないのも彼女らしい。

 仕事の会話でひとしきり盛り上がり、ふとした沈黙が訪れる。こういうとき女性ならわりと自分の話を聞いてほしかったり、こちらにあれこれ質問してくるものではないのだろうか。

 けれどそれは偏見だとすぐに思い直す。早希は今まで出会った女性とは違う。そもそも彼女がどんな女性なのか俺はまったく知らない。
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