御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
「無理に会話しなくてもかまいませんよ」

 こちらの顔色を読んだのか口火を切った彼女に俺は即座に言い返す。

「無理はしていない」

 するとわずかに早希の目が見開かれた。知らないと自覚したからか、らしくもなく俺は彼女に尋ねる。

「……休みの日はなにをして過ごしているんだ?」

 不審というより不思議な面持ち。けれど早希は律儀に答えを考えている。

「自分の秘書のことを知りたいと思ってなにが悪い?」

 他意はない意図で告げたが、本音は少しだけ異なった。彼女が秘書だからというのはもちろんあるが、それ以上に早希自身に興味が湧いていた。

 断片的な早希の情報を収集する中で、彼女からも質問がある。

「どうして社長は千葉重工業の跡を継がず、新たに会社を興したんですか?」

 一瞬、言葉に詰まった。わずかに自分の中で痛みを抱えている部分でもあるからだ。

 いつもならさらりとかわすか適当に取り繕うところだが、早希があまりにもストレートに尋ねてくるので、俺は正直に話した。

 父親とのわだかまりはあまり他人に話さないようにしている。反応はだいたい決まってふたつ。父親を理解してやれと諭されるか、気の毒だと同情されるかだ。

 しかし早希はどちらでもなかった。

「親がみんな子どもを愛せるとは限りませんから」

 どこまでも冷静な言い方に逆に虚を衝かれる。

「そこはフォローしたりするもんじゃないのか?」

「してほしかったんですか?」

 俺は彼女になにを期待していたのか。自分の中で問いかけすぐに気づく。……違う、決めつけていたんだ。相手の反応を勝手に予想して見くびっていた。
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