御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
 それは傲慢以外の何物でもない。自覚してつい笑みがこぼれる。早希を今まで出会った女性たちと同じだと思うのは失礼だ。

 秘書だからというより早希自身を見ようと決意する。彼女といるのは、心地よかった。

 仕事の面以外でも、こちらの体調にまで口を出してくるのはいかがなものかと思ったが、毎回早希が声をかけてくるタイミングが絶妙で、結局彼女の言い分を認めてしまう。

 彼女が活ける花は明るい色のものばかりで、俺自身は興味がなかったが来客には評判がよかった。有能な秘書をもって自分は恵まれている。

 そして早希が俺の秘書になって三年目を迎えた頃だった。頻繁に周囲から結婚を勧められ辟易していた俺は、付き合いのあったヒビノ工業の孫娘を紹介され、それとなく意を固める。

「結婚は……するべきなんだろうな」

 ひとり言にも似た呟きに珍しく君島さんだけではなく早希も反応を示した。

「ビジネスみたいですね」

 否定も肯定もしない。割り切っているのは事実だ。歩み寄りは見せるし、既婚者という肩書きは悪くない。

 先方も同じだ。欲しいのは立場的に釣り合いがとれて会社に利益をもたらす相手。この結婚に愛も恋も必要ない。

 ヒビノ工業の令嬢と会う際も段取りはすべて早希に任せた。

「素敵なお店ですね」

「秘書が有能なので」

 彼女の感想に対し、自分がセッティングしたと見栄を張る気さえしない。

「たしか、若い女性でしたっけ?」

「ええ、でもよく気がつくし仕事も早いので重宝しています」

 そこで彼女の顔が一瞬、歪む。しかし意味がわからない。
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