御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
「そういえばお父様との関係はいかがですか?」

 しかし彼女はすぐに違う話題を振ってきた。ヒビノ工業とは付き合いも長いので、こちらがなにも話さなくても父や祖父からなにかしらの情報を得ているのだろう

「相変わらずですよ」

 あえて短く返す俺に対して、彼女は笑顔になる。

「結婚したらなにか変わるかもしれませんよ! お父様も本当は明臣さんを誰よりも思っているんですから」

 なにも答えず笑顔を貼りつける。こういった反応は今までにいくらでもあった。

『親がみんな子どもを愛せるとは限りませんから』

 そこで早希の言葉を思い出す。彼女はどうしてああ言ったのか。母子家庭だとは聞いたが、詳しい事情は知らない。

 なにを思ってあの発言を……。

「明臣さん?」

 声をかけられ我に返る。秘書とはいえ、そこまで立ち入る権利はない。結婚のために会っている相手を前になにを考えているんだ、俺は。

 そして長期の出張を控えた俺は、その日もヒビノ工業の令嬢と食事を共にしていた。

「……結婚のお話、なかったことにしていただけませんか?」

 いつもと変わらないやりとり。しかし食事が終わる頃、相手から突然切り出された。

「理由を伺っても?」

 自分でも驚くほど冷静に返す。彼女はうっすらと笑った。

「今日頂いたお花、とても素敵ですけれど私の趣味ではないんです」

 それが関係を解消する直接の理由だと思うほど馬鹿ではないが、彼女の本意が見えない。 
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