御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
 なんで来たのかと悪態をつかれる可能性も……。

「お父様になんで来たんだって憎まれ口を叩かれたら、私が言い返します。嫌なら上に立つ者が……親が子どもに心配かけるような倒れ方をするなって」

 早希の言い分に目を丸くする。そして想像するとつい噴き出してしまった。彼女なら相手が俺の父だろうと千葉工業の現社長だろうと、本気でそう説教しかねない。

 参った、これは認めざるをえない。秘書として優秀だからという理由だけじゃない。早希はいつも絶妙なタイミングで俺に向き合って寄り添ってくる。

 社長という立場も関係なく俺自身に。

『私とその優秀な秘書の女性、あなたにとって大切なのはどちらですか?』

 あのときは、はっきり答えられなかった。でもとっくに答えは決まっている。どちら、じゃない。俺には早希が必要で、大切なんだ。

「私は……あなたの秘書ですから」

 けれど彼女にとっては俺との付き合いはあくまでも仕事の一環だ。それでもかまわない。やっと自分の気持ちを自覚できたのだから。

 病院に着き、父の容体が安定するまで母のそばにいたのは正解だったのかもしれない。母は父に付き添うことになり、俺としても明日からの出張を変更させるわけにはいかない。

 早希が近くのホテルを取るなど、冷静に段取りを整えてくれたのは有り難かった。

 彼女に対する(ねぎら)いをなにもしていないと気づき、食事に誘って共にテーブルにつくが早希は落ち着かずにそわそわとしていた。
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