御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
 聞けば俺とヒビノ工業の孫娘との関係を心配しているという。彼女の律儀さが相変わらずだと思いつつ関係を解消した旨をさらりと告げた。

「だから、なにも気にする必要はない。川上さえよかったらもう少し付き合ってくれないか? 仕事と思ってくれてかまわない。残業代は出す」

 秘書として俺のためにここまでしてくれたのなら、同じ理屈でもう少しそばにいてくれるだろうか。

 自分でも無茶な理屈を言っている自覚はある。早希の性格だ、はっきりと断られると予想する。それとも仕事と割り切るのか。

 すると、彼女は思ってもみない行動を取った。

 突然、シャンパンの入ったグラスを手に取り一気に飲み干したのだ。一緒に食事をした際に早希がアルコールに手をつけた記憶はない。

 あくまでも仕事中なので、と頑なに拒否していた。元々酒に強くないと聞いていたが、それが今はどうしたのか。

「私、職務中にお酒なんて飲みません。だから……ここからは個人的な判断であなたといるんです」

 どういう立場でここにいるのか明確にするために、正確には俺に伝わるように自ら慣れない酒を(あお)ったらしい。

 その結論に達したのと同時にふらつく早希を支ようと駆け寄る。そしてふたりで床に座り込む形で向き合い、彼女から俺に触れてきた。

「大丈夫。なにも心配いりません」

 落ち着かせる優しい声と笑顔に心が揺れる。至近距離で目が合い、ごく自然な流れで唇を重ねた。
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