御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
 それだけですむはずはなく、早希の反応をうかがいながら口づけを繰り返すと彼女は意外にも受け入れる姿勢を見せ、キスはすぐに深いものになる。

「……んっ、んん」

 時折漏れる早希の甘い声に欲深さが増す。その一方で頭の中で警鐘が鳴り響く。これ以上進むと戻れなくなる。

 彼女の優しさに付け入るような真似をして、どうするんだ。こんなふうになし崩しに関係をもっていい相手じゃない。

 理性を振り絞って口づけを中断させると、早希は潤んだ瞳でこちらを見つめてくる。その顔は今にも泣き出しそうだった。

 わずかな罪悪感が胸を突く。

「川上」

「嫌です」

 名前を呼んだのと先が声を発したのはほぼ同時だった。彼女に触れそうになった手が思わず止まる。

 すると次の瞬間、勢いよく早希から俺に抱きついてきた。

「離れないでください!……そばにいてほしいんです」

 意外な内容に虚を衝かれる。そして彼女はおもむろに顔を上げると俺の目をまっすぐに見据え、濡れた唇を動かした。

「好き」

 消え入りそうな声だったが、しっかりと聞き取れた。その言葉を封じ込めるように早希の口をキスで塞ぐ。

 さっきもそうだったが彼女の口内は甘いアルコールの味がわずかにする。酔っているのもわかっている。いつもの早希らしくないのも。

 けれど、もう逆らえない。俺はとっくに彼女に酔っているんだ。

 順番を間違えた。熱を交わした後、ベッド眠っている早希の頭を撫でながら寝顔を眺める。
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