御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
 今日だけで彼女のいろいろな側面を見た。

 強気に物申す姿も、譲らない姿勢も、寂しそうな表情も……どれもが新鮮で愛しく感じる。

 柔らかい笑顔や艶っぽい泣き顔まで目の当りにして、できればこんな早希を知っているのは俺だけでいいと強く思った。

 その感情に、こんなにも誰かに執着する自分に驚く。秘書だから必要なんじゃない。早希だから誰にも渡したくないと思ったんだ。

 時計を確認してため息をつく。日付が変わっているが、朝一で出張に行かなくてはならないのが今は少しだけもどかしい。

 温もりを感じたくて早希を腕の中に抱きしめた。

「大丈夫だ、ひとりじゃない」

 かけられた言葉を思い出す。もしかすると彼女も普段は表に出さないだけで孤独を抱えているのかもしれない。

 でも、そばにいてほしいと願ってくれたなら叶えてみせる。

 とはいえ、こんな関係になって起きたときに早希はどんな反応をするのか。ゆっくり話す時間はなさそうだが、せめて自分の気持ちくらいは伝えたい。

 そう思って目が覚めると早希の姿はなく、フロントからのモーニングコールだけが鳴り響いていた。

 メモが残されていたが出張に関する段取りなど仕事の用件しか記されておらず、わずかな不安を抱きつつ頭を切り替える。

 ひとまず今は目の前の出張に集中させなければ。三ヶ月と長くはあるが、新規事業の海外進出に関わる重大な案件だ。

 それに早希は俺の秘書だ。戻ってから改めてじっくりと話をすればいい。
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