御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
 それから早希を忘れるために今まで以上に仕事に打ち込んだ。仕事で頭をいっぱいにして余計な考えに支配されたくなかった。

 誰もいない社長室でひたすら関連資料を読みあさっていると、ふとした瞬間に集中力が切れる。さすがに目がかすんで頭も重い。

 パソコン画面から視線をはずし、椅子の背もたれに体を預ける。ここ最近、どうも調子があまりよくない。

『社長、次の会議までまだ余裕がありますから、少し休んでください』

 不意に早希の声がよみがえる。思えば、いつも絶妙な頃合いを見計らって彼女は俺に休息を促してきた。だから俺は調子を崩さずに仕事をこなしてこられたんだ。

 会社を興した頃は父親を見返したい気持ちで躍起になっていたが、いつのまにかその思いはなくなり、純粋に会社の成長や業界の需要拡大をするために動いている。

 俺は右手の甲で自分の目を覆った。思い出さないようにと意識しても、無理な話だった。早希の後任として配属された女性の仕事ぶりもつい比べてしまう。

 後任の彼女が悪いわけでも、できない人間というわけでもない。気がつくもの、声をかけるタイミング、活ける花、なにもかもが早希と違っていてそれが上手く自分にはまらない。

 慣れの問題かと思ったが、そうじゃない。俺が上手く使っているつもりで、早希が俺に合わせていたんだ。だからこちらは好きに動いて、仕事を進められていた。

 彼女を失った穴が大きすぎてなかなか埋められない。それは仕事に関してだけではなかった。
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