御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
『……悪い、喋りすぎたな』

 話が一区切り切りついたところで社長がくしゃりと頭を掻く。彼のなめらかな黒髪は癖がつくこともなく彼の指の間を滑った。

『いいえ。聞けてよかったです』

 静かに答えると社長は一度こちらを見てから軽く溜め息をついた。

『ま、父の思うように生きてこなかったら認められないし、腹も立つんだろう』

『親がみんな子どもを愛せるとは限りませんから』

 間を空けずに答えるとどういうわけか社長が私をまじまじと見つめてくる。

『そこはフォローしたりするもんじゃないのか?』

『してほしかったんですか?』

 彼の意に沿えなかったのか。すかさず切り返すと社長は目を丸くした後、どういうわけか噴き出した。

『いや』

 笑いを噛み殺して答える彼に、今度は私が目を見張る。わからない。今のやり取りのどこで笑うところがあるのか。

 尋ねようとしても初めて見る彼の笑顔になにも言えなくなる。

 そこから少しずつ社長と仕事以外でも会話を交わすようになった。私の彼を見る目が変化したのもあって、ほんの些細なやり取りが増えていく。

 私も次第に仕事の要領を掴み、自発的に考えて動き仕事をこなした。社長にも必要だと思う意見は臆せず口にした。とくに体調面に関しては。

 彼は完全な仕事(ワーカー)人間(ホリック)だった。まったくいつ休んでいるのか。私より遅くまで残って早く出社しているのは当たり前。

 上に立つ者として当然と言われればそれまでだが、彼の場合は度を超えている。
< 14 / 147 >

この作品をシェア

pagetop